自動運転に関して、非常に危険な兆候が見られる報道がありました。一見すると非常にポジティブな、明るい未来の予兆のようなものを感じさせる記事なのですが。一体、どの辺りが危険なのでしょうか。全文を引用しましたので、ご覧ください。
「自動運転バス」が走る街では「家の前にバス停」が実現していた!導入2年以上で自動運転事故はほぼゼロ
4月1日に施行された「改正道路交通法」によって、特定条件下での運転を自動化する「レベル4走行」が可能になった。これで、無人自動運転の車が公道を走れるようになり、各地で実用化に向けた実証実験がおこなわれている。
そんななか、ひと足早く、自動運転のバスが公道を走る "未来の世界" を実現している地域がある。
北海道上士幌町と茨城県境町、そして5.9ヘクタールの広さを誇る羽田空港に近い大型複合施設「羽田イノベーションシティ」(東京都大田区)だ。
なかでも2020年11月の運行開始から2年が経った茨城県境町では、すっかり町民の足として親しまれている。
運行開始前、境町にとって交通弱者への支援は急務だった。境町企画部地方創生課の担当者はこう話す。
「境町には鉄道の駅がなく、車が生活の足として必要不可欠です。そのため高齢者が免許を返納したくてもできない状況にありました」
少子高齢化により、全国各地で同じような公共交通の課題を抱えており、境町も頭を悩ませていた。
「公共交通の充実について検討を進めるなかで、2019年11月に自動運転バスのニュース記事を目にしました。
地方では、バス運転手のなり手が確保できず、地域交通の維持が困難になりつつあります。この問題を解決するため、自動運転バスの導入を決断しました」(同)
こうして境町が連絡を取ったのが、自動運転バスを運行しているソフトバンク傘下のBOLDLY(ボードリー)株式会社だった。
現在、境町で運行されている自動運転バスは、乗務員1人が乗車しているが、いずれは「レベル4走行」での運行を目指すという。同社の佐治友基社長がこう話す。
「旧来のバス路線は、自治体やバス事業者が都市計画や土地活用の計画などを考慮して、人通りが多くなりそうな場所を想定して決めていたと思うんです。
でも、自動運転バスを走らせたい地域は、昔はバス路線があったが現在はなくなって困っている人が多い地域なので、お年寄りや子育て中のお母さん世代などに、どこに立ち寄るルートが必要か、さまざまな声を聞きました。
すると、役場や郵便局や病院などの公的施設を結ぶルート以外に、学校や公園やスーパーなどにバス停を設置してほしいという意見が多かったんです。
当社では、携帯電話を所持している方が町内のどこに何時間滞在したかなどをマップ上で見える化して、自動運転のルートがきちんと住民の方の "足" になっているか、町のみなさんと話し合いながらルートを決めています」
現在の運行ルートは2つ。佐治氏によると、自動運転バスの運行によって思いもよらないメリットがいくつもあったという。まずはバス停の設置についてである。
「バス停はルートと同様、住民のみなさんと話し合いながら決めていますが、『私の家の前に置いてください』『隣の家のお母さんが病院通いをしているので、家の前にバス停があったらいいと思います』など、切実な声がありました。
そのため、かなり実生活に即したバス停になっています。その際に非常に驚いたのが、住民のみなさんが自分の家の敷地内、民有地と呼ばれる場所にバス停を置かせてくださったことです。
道路上に置くとなると行政手続き上、道路使用許可などが必要になってくるのですが、民有地なのでその必要はないですし、管理も非常に楽です。
バスの停車場所だとわかるように、自分の敷地内の路面にプリントをしてくれている方もいます。こうしたご協力は本当にありがたいと思っています」
スーパーや病院などは、当初、公道上にバス停を設置していたが、「雨が降ったときや荷物が多いときにバス停まで歩かなくてすむ」ということで、敷地内にバス停を置くことを許可。バスが入ってきて、出入り口からすぐ乗れるようにしているという。
「より使いやすいように、住民自身がバスの路線のデザインに関わっていることがすごい」と、佐治氏は話す。
実は、自動運転バスの運行が交通安全の面でもひと役買ったという。
「自動運転バス導入初期、郵便局や病院など住民が出かける場所は交通量が多く、路上駐車が両側を埋めているような状態でした。そんな道路を自動運転バスが通れるのかと心配されてました。
ところが、『自動運転バスを走らせます。路上駐車がないほうがスムーズに走れるのでご協力をお願いします』といった告知をおこなったところ、翌日ぐらいから、一気に路上駐車がなくなったんです。
これは世界的に見ても珍しい事例で、たとえば中国などは『自動運転だから避けてくれるんでしょ』と突っ込んできたり、割り込んできたりするような町もあります。
でも、境町の住民の方々は『交通弱者のためだから』と非常に協力的でした。その結果、警察からも路上駐車がなくなり、交通安全の面で非常によかったと評価されています」
"町民の足" として大いに活躍している自動運転バス。佐治氏も境町も驚いたのはその経済効果である。
「運行から2年が経過しましたが、これまで1万5000人以上の方々に乗車いただき、河野太郎デジタル担当大臣やドイツのバイエルン州議会など、自動運転バスに関する視察だけで、256団体、1401名(2023年3月30日現在)を受け入れるなど、町のPRにもつながっています。
テレビや新聞などのメディアに取り上げられることも多く、BOLDLYが試算したところによると、およそ7億円もの経済効果が生まれています」(境町企画部地方創生課の担当者)
佐治氏も声を揃える。
「視察にいらしてくださった多くの方から、『かわいい』『かっこいい』というような評価をいただきます。その結果スポンサーがつきましたし、ある企業からは町に1000万円の寄付がありました。
とにかく使っていただこうと、自動運転バスは無料でスタートしたのですが、仮に運賃を100円としたら10万人乗車しないと1000万円にはなりません。
境町の人口は約2万人ですから、こういった寄付はかなり大きいと思います。マスコミの方も視察にいらっしゃるので、ニュースや記事になったりします。
すると、町外に住んでいるお孫さんが自動運転バスに乗ることを目的に遊びに来たりするんですね。ゴールデンウィークなどは、すごい賑わいですよ。
結果的に住民の方も『境町に住んでいてよかった』と満足度も高くなり、おじいさんやおばあさんの目が輝いてくるんです(笑)。今や自動運転バスは "町おこし" のようになっていると思います」
これまでに起きた事故は2件のみ。1件は自動運転バスが停車中に、バックしてきた一般車と衝突した事故で、一般車の過失が10割。もう1件は、町の所有地内での新人トレーニング中、「手動モード」時に施設とぶつかる物損事故だった。自動運転による事故はほぼゼロと言っていい。
現在、時速20kmの運行速度で、計3台を運行している。
「利用者から『速度が遅い』などの声はありません。病院やスーパーに行くのに1分1秒を争っているわけではないからでしょう。
反対に『そんなに速度を上げるな』と、おじいさん、おばあさんに怒られたこともあります(笑)。
いまのところは住民の方からは時速20kmぐらいがベストという評価ですが、必要あれば速度を上げていきたいと思います」(佐治氏)
気になる自治体の費用面だが、境町では「ふるさと納税」と補助金を活用しており、境町の持ち出しはゼロ。佐治氏は「自動運転バスは住民が育てていくもの」だと語る。
「これまで住民のみなさんがルールを守ってくれているので、事故も起きていません。でも、『センサーがあるから止まってくれるだろう』などと、急に飛び出したりすれば、事故が起きてしまいます。
境町のみなさんは『交通弱者のために』と、ルールを守ってくれているんです。自動運転バスは交通弱者が多く、困っている人が多い地域にこそ、普及させたい。まさに、地域の住民が育てていくものだと思っています」
境町企画部地方創生課の担当者も今後についてこう話す。
「『高齢者が買い物に行けるようになった』『これで免許を返納しても生活できる』『塾の送り迎えがいらなくなった』などの声をいただくとともに、『ほかのルートも拡張してほしい』『夜の便も運行してほしい』などのご要望もいただいています。
今後も境町の "横に動くエレベーター" として、自動運転バスを地域のみなさまと育てていくとともに、『誰もが生活の足に困らない町』を目指していきたいと思います」
自動運転バスは、交通弱者を助ける公共交通本来の役割だけでなく、町そのものに活気をもたらす大きな存在となっている。
引用元;FLASH
以上、長い記事ではありましたが、その危うさを感じ取れたでしょうか。何が危険かといえば、その「危機感の無さ」です。
報じている媒体が、自動車誌でも経済紙でもない報道機関であるという点は差し引かなければなりません。それでもなお、あまりにものほほんとした論調は、多いにミスリードにつながるものです。「怒られたこともあります(笑)」とありますが、これは人命に関わるプロジェクトです。
まず、大元の間違いは、ドライバー人材が足りないために、自動運転の実証を開始したという点です。
現時点での自動運転システムは運転補助の域を出ないものであり、無人でどこまででも行き来できるような完成されたものではありません。また、システムの幹となるAIにおいても、ChatGPTでも明らかになっている通り、完全なものではありません。むしろ錯誤の多さが問題となっています。研究用とやエンタメ目的のAIであれば、9割方正しければ大きな問題はないかも知れません。しかし、車の運転となると、即、人命に関わるものとなります。僅かなミス率でも許されません。この状況で実運用を開始するというのは、人命軽視も甚だしいと言える展開です。それに、ドライバー不足を解決するには、人材育成を含めて人員確保の政策を進めるべきでしょう。未熟な自動運転システムを拙速に展開することが解決策になると考えるのは明らかな間違いです。
また、自動運転車に協力すべく、地域の住民の献身により路上駐車が減ったと報じていますが、自動運転システムが未熟な証拠でしょう。人間がシステムに合わせなくてはいけない程度の段階で、自律型の人命を奪う恐れのある乗り物を展開すべきではありません。
さらに、運行速度は20km程度で、これを遅いととらえたような報道となっていますが、この認識も大きな間違いです。上述のように不完全なシステムでは事故率がゼロ%ではないため、エラー時の人命担保がなされてなければいけません。衝突時のエネルギーは速度の2乗に比例するため、人命を守るためには速度を落とすことが最優先されなければいけません。シートベルトを締めた状態で、人命を守ることができる速度はせいぜい7km。高めに見積もっても10km未満であることは必須でしょう。ましてや、記事では高齢者の乗客が前提で、地域にも高齢者が街行く地域でこのプロジェクトを行っている訳です。あまりにも認識が甘いと言えるのではないでしょうか。
他にも、重大な2件の事象に対して「事故はほぼゼロ」と言ってみたり、「横に動くエレベーター」と言ってみたり、単に認識の錯誤なのか、意図的なミスリードなのか判断に迷うような論調が目立ちます。全体的にのんきな空気感の記事でした。願わくば、オリンピックに乗じてPRしようとした自動運転車が、人身事故を起こしたような最近の事例からしっかり学んで、安全を最優先にした展開をして欲しいと思います。